理事コラム
[2019年6月14日(金曜日)/理事・曽和 利光]
人は大事にしてくれる人のために生きる
人は、自分の生きる道をどうやって決めるのでしょう。人生にはいろいろな岐路がありますが、ふつうそのうち一つしか選べません。一つを選ぶことは、他のすべての選択肢を捨てるということ。ありえたかもしれない人生を捨てる、勇気のいる決断です。新卒の学生が社会に出て最初に入る会社を決めることはなんと大変なのだろうと思います。
採用を長くやっていると、この重さを忘れてしまうことがあります。内定を学生に伝えるのにメールで簡単に伝えたり、一方的にこの期限内で受諾するか決めろと言ったり、誓約書にサインしろと指示したりする。人の一生を左右する伝達を行うのにしては軽い。受けた側は、心の奥底では「この会社は人を大切にしない会社だなあ」と考えているかもしれません。
人は誰もが誰かのために生きていて、他の誰かを輝かせることに幸せを感じるもの。完全に利己的な人もいるかもしれませんが、それは少数派で、多くの人は誰かの役に立ちたいと考えています。入社する会社を選ぶということは、どういう相手のために生きるかを選ぶことと同じ。その相手とは、会社のお客様や一緒に仕事をする仲間です。
一度の人生、同じ働くなら、貢献する相手を選びたい。誰のために生きたいかは、自明です。それは「自分を大事にしてくれている人」です。「士は己を知る者のために死す」というように、自分を認め、期待をし、大切に思ってくれる人。そういう人のために生きたいと思うのは当然です。先にあげたような内定の出し方では、自分を大事にしてくれているとは思わないでしょう。
内定辞退に悩んでいる採用担当者はたくさんいます。辞退をした学生に怒りを抱く人もいます。しかし、その前に、今一度、学生一人ひとりを本当に大事にしているのか、大事にしているという気持ちが伝わっているのかを考えてみてください。人は合理的に利得だけ考えて生きるわけではありません。皆さんの相手を大事にする気持ちが伝われば、きっと内定受諾率は自然に上がっていくことでしょう。
出典:『「最高の人材」が入社する 採用の絶対ルール』(釘崎清秀・伊達洋駆/ナツメ社刊/四六判/264ページ/定価:本体1300円+税)
曽和 利光
株式会社人材研究所 代表取締役社長、組織人事コンサルタント
京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。著書に「『ネットワーク採用』とは何か」(労務行政)など。