理事コラム

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[2019年9月25日(水曜日)/理事・曽和 利光]

採用という仕事の「カルマ」

 
「何かをすれば、何かが起こる」
 
タイトルにある「カルマ」とは「自らが為したことの結果生じるもの」という意味で、仏教などでよく使われている言葉です。なんとなく「悪業」という悪い意味に聞こえることがあります。しかし、本来的には上記のように「何かをすれば、何かが起こる」というだけのことですから悪い結果のことだけを指すわけではなく、良いカルマも悪いカルマもあるというフラットな言葉です。
 
ただ、良い行いをすれば良いカルマが生まれ、悪い行いをすれば悪いカルマが生まれるのか。物事はそう簡単ではないでしょう。良かれと思ってやったことが悪い結果を生み出したり、悪い心持ちで行なったことでも偶然が重なり結果オーライになったりすることは多々あります。世界は事程左様に理不尽です。しかし、どんな行為から成されたにせよ、生じたカルマを人は背負って生きていかねばなりません。

 
 
採用担当者にとってのカルマとは
 
人事や採用に長く携わってきた方なら、この「カルマ」という言葉を聞くと、ずっしりと胸に応えるのではないでしょうか。私はそうです。自分は一体どれだけの人の人生に影響を与えてしまったのであろう。いろいろな人の縁を作ったり切ったりしてしまった。それによって、彼らがどうなったか。見えていることもあれば、見えていないものもあります。いずれにせよ私のカルマは膨大です。その全てを甘んじて受けねばなりません。
 
今のところ、見えているものは良い結果となっていることが多いのは幸いです。「お前のせいで、私の人生はめちゃくちゃだ」と言われたことはまだありません。「あなたのおかげで今がある」と言ってもらえることもあります。しかし、それは私が採用で関わった人々自身が頑張ったからであり、世界に対しての見方がポジティブだからであっただけで、本当のところ、自分のしてきた行いは良いカルマとなっているのかどうかは永遠にわかりません。

 
 
本当は気が遠くなるほど重い仕事
 
私を恨んでいる人もいるかもしれません。いや、いるでしょう。私はこれまで千人はゆうに超える人の採用に関わってきましたが、一方で何万人もの人を不採用にしてきました。また、今となれば間違っていたのではないかと自分でも思うような判断やアドバイスをたくさんしてきたようにも思います。未来の自分から現在の私を見れば、今でもしているかもしれません。必然的に悪いカルマもあることでしょう。ただ、まだ、知らないだけです。
 
思えば、採用とはいかに多くのカルマを生み出す仕事なのでしょうか。想像力を逞しくすればするほど、どんどんこの仕事の重さを感じるようになります。感受性の強い人なら重みに耐えられないかもしれません。採用担当者には感受性の強い人が多そうですが、そういう採用担当者の皆さんが、このカルマの重さをどうやってやり過ごしているのか、ちゃんと対処できているのかがとても心配になります。

 
 
しかし現実から目をそむけてはいけない
 
たまに、あまりのカルマの重さに、背を向けて見ないふりをしていたり、見えているものに歪んだ解釈を与えて、良いカルマに仕立て上げていたりする人を見ます。狂わずに生きていくには必要な便法かもしれません。責めるつもりはありません。しかし、仕事柄必ず人の人生に直接的な影響を与えてしまう採用という仕事をする人は、できれば自分がしたことの結果について、常に思いを馳せておくべきではないかと思います。
 
それはかなり辛いことです。大変なことです。ですが、そうやってカルマをきちんと意識することが、一期一会の機会の重さを認識することになり、採用活動の一つひとつの仕事を丁寧にすることにつながります。また、まれにいる「どれ、オレ様が人の価値を評価してやろうか」という体の、増長した採用担当者にならずにすみます。人に対して、自分の仕事に対して謙虚でいることは、成長の基礎です。増長すれば改善はなく、成長はありません。

 
 
時々、世界を彷徨い、自分が為したことを知る
 
そのためには、採用担当者は仕事の結果を振り返ることが重要です。それも短期ではなく、超長期に、です。仕事としては、採用目標人数が満たせたり満たせなかったり、短期間で定期的に結果は出ます。しかし、採用時評価が全てではありません。それは本当の結果、カルマではありません。「あの採用はよかったのか」は、かなりの年月を経て、様々な場面によって検証されて、ようやくそれで「なんとなく」わかっていくぐらいのものでしょう。
 
振り返りを意識しなければ「なんとなく」すらわかりません。ですから、採用担当者は、砂漠に水を撒くような努力だとは知りながらも「自らが為したことの結果生じるもの」、採用によって生じたカルマを、日々回収していく必要があると思います。あの人はどうなった、この人はどうなった、と、時々仕事を一休みして、リアル世界やネット世界を彷徨してみてはどうでしょう。いつか自ら為したことの結果が見えてくることでしょう。

曽和 利光

曽和 利光

株式会社人材研究所 代表取締役社長、組織人事コンサルタント

京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。著書に「『ネットワーク採用』とは何か」(労務行政)など。

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