理事コラム
[2022年2月3日(木曜日)/理事・曽和 利光]
なんのために自社の採用力の「検定」を行うべきなのか
◆ハイパフォーマーは「自己認知」が高い
人事コンサルティングをする際、テーマが採用でも制度設計でも、必ずすることがあります。それはクライアント企業のハイパフォーマー(高業績者)の特徴を調べることです。それを参考に採用基準や育成目標、評価項目、配置指針などを決めていくためです。もちろん個々の会社、仕事で、その特徴は異なり様々なのですが、かなり普遍的な特徴もあります。その中の一つが「自己認知」です。自己認知、つまり自分のことを正確によく知っていることは、様々な能力のベースとなっているので、ハイパフォーマーの共通した特徴になっているのでしょう。
◆「自己認知」は学習能力に関係している
例えば、自己認知と関係する能力の一つが学習能力です。理由は単純で、自分はどんなことが得意で、どんなことが苦手であるのかということがわからなければ、学習しようがないからです。できていないことをできていると思っていては、何を改善したらよいのかわかりませんし、そもそも学習しようという動機も起こりません。だから、自己認知があまりできていない人は、うまく学習することができず、その結果、成長することができず、高い業績を上げることができないわけです。よって、もしもある領域において能力開発をしたいのであれば、まずやるべきことは自己認知の向上です。
◆「検定」は自己認知を向上させる手段
とってつけたように聞こえるかもしれませんが笑、だから採用力検定試験などを受けていただいて、採用担当者は、採用力を構成する要素のうち、自分はどこが強くてどこが弱いのかを知って自己認知を向上させる必要があるのではないかと思います。「採用面接は長年やってきたから学ぶことは何もない」と思っていれば、自分の面接手法について振り返ったり改善したりしようとは思わないでしょうが、もし検定で例えば評価の領域についての点数が低ければ、「なぜ、低い点数になったのか」「どこに思い違いがあったのか」など、考えるきっかけになるのではないでしょうか。
◆個人だけではなくチーム全体の注力ポイントを知る
また、採用活動は個人で行うことは少なく、基本的にはチームで行うものです。専業の担当者は一人でも、面接官やリクルーターなどを担当する現場社員や経営幹部、社長なども採用チームです。個々人で採用のすべての領域でスーパーマンになることを目指すのは立派なことですが、現実的には人には得手不得手がありますので、チーム全体で必要な能力を確保できればまずはよいと思います。それを考える際にも、採用力検定をチーム全体で受けることで、自社の採用チーム全体で苦手な分野があればそれを強化するような研修等を行う必要があるとわかりますし、個々人ではできてないところがあっても、それを誰かが補完してくれているのであれば、うまく役割分担すればよいだけだとわかります。
◆採用という曖昧な現場にこそ可視化できる指標を
特に、採用活動は、その成果すら「うまくいったのかどうか」が曖昧です。目標人数を確保できたから成功という単純なものではありません。成果が曖昧なら、自社の採用力が足りているのかいないのかも曖昧になります。もし経営者が今の採用結果に満足しているとしても、採用力検定の結果、あまりよい点数が出ない場合、もしかすると、そこを改善することで、今よりもさらによい採用結果を生み出すことができるかもしれません。しかし、何の可視化された指標もなければ、そういう問題意識を持つことさえできません。逆に採用力検定の結果が良ければ、採用担当者は十分に熟練しており、可能な限りの仕事をしていて、さらに高い採用成果を上げたければ、投資を拡大しなければならないということもわかります。
◆技能は知識の上に構築するべき
もちろん、採用力検定は万能ではありません。最大の弱みは現時点では、技能(スキル)についての試験はなく、知識(ナレッジ)についてのみの検定であるということです。知識は獲得すればすぐに役立つもの、技能は訓練によって身に付けなければ役立たないものです。面接技能などは検定を受けて、「こうすればよい面接ができる」と知識だけを得ても、明日から優れた面接者になることは難しいかもしれません。ただ、結局、技能は知識の上に構築されるものです。間違った知識に基づいて技能訓練をすれば、間違った技能を徹底的に身に付けてしまいます。技能を身に付けるには時間がかかるからこそ、ゴールを見誤っては大変もったいないことになってしまいます。ですから、やはり知識は必要なのです。そのためにも、採用力に関する知識の検定、採用力検定を利用していただきたいと思っています。
曽和 利光
株式会社人材研究所 代表取締役社長、組織人事コンサルタント
京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。著書に「『ネットワーク採用』とは何か」(労務行政)など。