理事コラム
[2021年12月14日(火曜日)/理事・伊達 洋駆]
社会最適の視座を実現する手段となるリファラル採用
◆採用力検定で重視する社会最適の視座
一般社団法人日本採用力検定協会では、「社会最適」の視座で採用に取り組むことを奨励しています。社会最適とは、「自社の採用が社会にとって有益なものになっているか」を考えることを意味します。
採用担当の方々に社会最適の視座についてお話すると、大抵の場合、共感や納得をいただけます。一方で、「どのような観点に気をつければ、社会最適な採用が実践できるのか」と疑問に思う方もいるようです。
社会最適の実践には、様々なアプローチがあり得ます。「どうすれば社会最適になるか」を考え続けること自体が大切だとも思います。とはいえ、社会最適を考え始めるきっかけはあるに越したことがありません。
◆企業が候補者の目的に合わせること
社会最適を実践するための一つの考え方として、「その採用は候補者にとってプラスになっているか」を検討すると良いでしょう。もちろん、候補者にプラスになる採用は、言うは易く行うは難しです。採用においては、企業の目的と候補者の目的がズレやすいからです。
企業は「良い候補者を選びたい」と考えています。他方で、候補者は「良い企業を選びたい」と考えています。このように、企業と候補者は別の方角を向いているのが一般的です。
企業と候補者の目的のズレを解消する一つの手は、企業が候補者の目的に合わせることでしょう。採用がうまくいっている企業の方と話をすると、「候補者が良い企業を選ぶのを支援する」スタンスで採用を進めていることに気づかされます。
しかし、企業が候補者の目的に合わせるのは、よほど徹底して意識しない限り、実現も維持もできません。そこでおすすめなのが、「リファラル採用」です。従業員が自身の知人・友人を会社に紹介するのが、リファラル採用です。
◆候補者の目的に自然に寄り添うリファラル採用
リファラル採用では、知人・友人の関係性というリソースを採用に動員します。知人・友人に自社を紹介する従業員は、「知人・友人にとって自社で働くことがプラスになるか」を真剣に考えます。
海外の学術研究では、知人・友人を支援したいという意欲が高いほど、自社を推薦することが明らかになっています(※1)。従業員にとって知人・友人は大事な存在です。自社の紹介に際して、知人・友人を思いやる気持ちが出てくるのは、自然なことです。
私の経営するビジネスリサーチラボではMyReferとの共同研究を行い、日本企業で勤務する1532名の従業員を対象にアンケートとログデータの分析を行いました。その結果、ここでも「知人・友人を手助けしたい」という気持ちが大きいほど、自社を紹介しようと思うことが分かりました(※2)。
以上の通り、当協会が重んじる「社会最適」の採用を具現化する一手段として、リファラル採用は有望です。リファラル採用を既に導入している企業は、さらに推進していくと良いでしょう。まだ導入していない企業は、社会最適の採用に近づくための方法として、導入を検討してみては如何でしょうか。
※1:Van Hoye, G. (2013). Recruiting through employee referrals: An examination of employees’ motives. Human Performance, 26, 451-464.
※2:MyRefer社との共同研究では、他にも様々な検証を行っています。調査レポートは次のURLを参考にしてください。
伊達 洋駆
株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。同研究科在籍中、2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年にビジネスリサーチラボを創業。以降、経営層・マネジメント層をクライアントに意思決定の精度を高めるためのリサーチ・コンサルティング事業を展開。2013年に横浜国立大学 服部泰宏研究室と共同で採用学研究所を立ち上げ、同研究所の所長を務める。