理事コラム
[2022年5月13日(金曜日)/理事・寺澤 康介]
日本企業の新卒一括採用は今後減る?
経団連は今年1月18日に、雇用・労働分野における経団連の基本的な考え方などを示す「2022年版 経営労働政策特別委員会報告」を公表しました。そこには、日本の新卒一括採用に対する批判とも受けとれる文言が並んでいます。一部、抜粋(多少文言を短くまとめています)したものを紹介しましょう。
- 新卒一括採用の重視の結果、新卒採用以外の入社機会が限られ、相対的に中途・経験者採用が抑制されている
- 新卒一括の大量採用が、中小企業やスタートアップ企業による必要な人材の獲得を困難にするとともに、起業等に失敗した者が企業に就職して再チャレンジする機会を狭めている等の理由から、わが国のスタートアップの振興を阻害しているとの指摘がある
- 多様な価値観・経験や専門性を持つ人材の確保のためには、採用方法の多様化が必要となる。新卒一括による採用割合を見直し、通年採用や中途・経験者採用の導入・拡大をさらに進めていくことが有効な選択肢となる
- 各企業が自社の事業戦略や企業風土に照らし、ジョブ型雇用の導入・活用を検討する必要がある
(以上、「2022年版 経営労働政策特別委員会報告」より)
正直に申し上げて、かなりこじつけた見方をされているのではないかと思います。
新卒採用を重視しているから、中途・経験者採用が抑制されているとは単純に言えません。新卒採用数が多い年に中途・経験者採用数が減っているわけではなく、新卒採用数が少ない年に中途・経験者採用数が増えているわけではありません。最近でも多くの企業から、中途・経験者採用を増やしたいけれど、応募が少ない、人材紹介会社から候補が出てこないという話をよく聞きます。
また、新卒一括の大量採用が中小企業やスタートアップ企業による必要な人材の獲得を困難にしているとありますが、そもそも中小企業やスタートアップ企業の多くは即戦力となる中途・経験者採用のウェイトが高いと言えます。また、起業等に失敗した者が企業に就職して再チャレンジする機会を狭めている等の理由から、わが国のスタートアップの振興を阻害している、というのは、言いがかり?としか思えません。スタートアップの振興阻害については、起業に失敗すると創業者が破産するようなリスクを軽減する措置や資金面などで支援する環境整備拡充の方がよほど課題として大きいでしょう。
新卒一括による採用割合を見直し、通年採用や中途・経験者採用の導入・拡大をさらに進めていくことを推奨していますが、先にも申し上げた通り、中途・経験者採用市場では中々人が取れず、新卒採用で一定数を確保でもしなければ人材が大きく不足するという企業はたくさんあります。
さて、こうしてみると、経団連が提言するように、今後新卒一括採用に割合が減っていくとは、私は思えません。現に、コロナ状況にあっても、企業の新卒採用計画数は増えていますし、今後デジタルリテラシーの高い若い人材の需要は益々増えると思います。
一方で、中途・経験者採用数も、景気に左右されつつも、大きな流れでは伸びていくのではないかと思います。事業の新陳代謝のスピードが加速度的に速くなる一方、コロナ禍などで働く人の価値観も変化し、自らの働き方を見直していく中で転職志向が増え、人材の流動性は高まっていくと予想されます。くり返しますが、だからといって新卒採用数が減るわけではないでしょう。
ただ、こうした予測も、一歩先では何が起こるか分からないVUCA時代においては、全く変わるかもしれません。ビジネス環境の変化を見据えつつ、柔軟に人材ポートフォリオを作り変え、こちらも変化する採用市場の動向を踏まえながら、自社の採用力を高め、独自の採用戦略を臨機応変に組むことがますます重要になると思います。
寺澤 康介
ProFuture株式会社 代表取締役社長
慶應義塾大学卒業。就職情報会社役員等を経て、2007年に採用プロドットコム株式会社(10年にHRプロ、15年にProFutureに社名変更)現在に至る。人事ポータルサイト「HRプロ」、経営者向けサイト「経営プロ」等を運営。週刊東洋経済、労政時報、NHK、朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、アエラ、文春等に採用・人事関連の執筆、出演、取材記事掲載。著書に「みんなで変える、日本の新卒採用・就職」など。