理事コラム

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[2019年8月16日(金曜日)/理事・服部 泰宏]

採用担当は会社と社会の未来を創っている

アメリカの人材サービス会社 Career Blissが、毎年発表している「最も幸福感を得られる職種」ランキングというのがあります。この2017年版において、採用担当は堂々の2位。惜しくもマーケティング専門職には敗れたのですが、その前年のランキングでは、同職を抑えての1位だったのです。なぜ採用担当が、海外でこれほどの人気があるのか。アメリカやドイツ、シンガポールでの、私自身の調査から2つの理由が浮かび上がってきました。

 

まず1つは、採用担当の仕事が、会社と個人の接点を作り、双方が未来を共に紡ぎ出す助けをしているからです。会社と個人がお互いに何を求め合うのか、それを本音でやり取りする採用は、双方が互いの未来を構想するプロセスに他なりません。その意味で、採用とは会社と個人が共に行う未来のプロジェクションであると私は考えています。契約社会といわれるアメリカならずとも、この考え方は極めて重要だと思うのですが、残念ながらいまの日本では、この意識が極めて希薄であるように思います。

 

そしてもう1つは、採用担当が若者と社会の接点になることです。アメリカの巨大金融グループで採用担当をしている友人は、「この仕事があなたにもたらす幸せとは?」という私の質問に対して、こう答えています。「目の前にいろんな可能性に開かれた若者がいて、その人を輝かせることのできそうな仕事がこちらにはある。だから私は、どうやってこの人を会社に迎え入れるかと、寝ても覚めても考える。ここに私の幸せの半分がある。でももし、その若者が輝くのは自社じゃないとわかったとする。私はそのことを伝える。そして何年かして、立派なスーツに身を包み颯爽と街を歩くその人と出会い、笑顔を交わす。これが私の、もう半分の幸せなの」。彼女の言葉に、私はアメリカの採用担当の矜恃を見た気がしました。私は、日本企業の採用担当者が「自分はこの会社とこの社会の未来を創る、誇り高く幸せな仕事をしている」、そう胸を張れる日がやってくることを願ってやみません。その時、日本の採用はきっといまよりも良いものへと変わっているはずです。そしてその日は、案外近いのかもしれません。

 

出典:『「最高の人材」が入社する 採用の絶対ルール』

(釘崎清秀・伊達洋駆/ナツメ社刊/四六判/264ページ/定価:本体1300円+税)

服部 泰宏

服部 泰宏

神戸大学大学院経営学研究科 准教授

神戸大学大学院経営学研究科 マネジメント・システム専攻 博士課程修了。日本企業における「組織と人の関わり合い」、日本のビジネス界における「知識の普及」に関する研究などに従事。2013年以降は、人材の採用に関する科学的アプローチである「採用学」の確立に向けた研究・教育活動に従事。
現在は北米、ASEAN企業の人材マネジメントの研究も行う。著書に「採用学」(新潮選書)など。

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