理事コラム
[2019年12月26日(木曜日)/理事・寺澤 康介]
マス的採用手法から、個にフォーカスする採用へ
新卒採用は、ここ数年でかつてないほどの大きな変化の波の中にある。一言でいえば、マス的採用手法から、個にフォーカスする採用への変化である。
就職ナビが企業の採用活動で大きな位置を占めていた数年前まで、企業はとにかく多くの母集団※を形成し、そこから大量にスクリーニングして合格者を絞り込むことを競い合っていた。
百人程度を採用するために数万から十数万のエントリーを1社が集めることは珍しくなく、つまりそこでは大量の不合格者を出す作業に企業は多大なエネルギーを注いでいたわけである。
また、選考開始時期のルールの縛りが厳しかった数年前までは、選考時期が集中し、短期間に一気に面接をしなければならず、学生一人ひとりを丁寧に見る時間は限られ、面接がベルトコンベアのような作業になっていたともいえる。
ところが、ここ数年、ダイレクトリクルーティングに代表される、母集団※規模を追わない新しい採用手法が浸透し、企業の就職ナビ依存度は一気に下がった。
ダイレクトリクルーティングは、学生一人ひとりが自分のページを持ち、企業がそこにオファーする方式であるが、このサービスによって、企業は母集団※規模を追わず、学生個人に対応することに時間を割くようになってきている。
学生の反応も良い。就職ナビからくるメールへの学生の反応は0.1%にも満たないことが多いのに、ダイレクトリクルーティングサービスのオファーメールだと数十%に跳ね上がることが少なくない。これはなぜか。学生は自分という個を見て対応してくれていることを好感しているからではないだろうか。
ダイレクトリクルーティングに限らず、新卒採用力の高い企業は、むやみに母集団※規模を追わず、学生一人ひとりと向き合う時間を増やし、個にフォーカスした採用を志向しているようだ。
企業としても個人としても採用力を高めるためには、学生たちをマスとして扱わず、いかに個として対応できるか、そしてそれを採用プロセスにおいて実現できる仕組みの設計ができるか、これらが重要なキーだと私は思う。
※日本採用力検定協会では、「母集団」という言葉は、本来的意味において誤用だと考えており「候補者群」の使用を推奨しています。しかし、本コラムでは筆者の主張を伝えやすくするために、あえて「母集団」を使用しました。
寺澤 康介
ProFuture株式会社 代表取締役社長
慶應義塾大学卒業。就職情報会社役員等を経て、2007年に採用プロドットコム株式会社(10年にHRプロ、15年にProFutureに社名変更)現在に至る。人事ポータルサイト「HRプロ」、経営者向けサイト「経営プロ」等を運営。週刊東洋経済、労政時報、NHK、朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、アエラ、文春等に採用・人事関連の執筆、出演、取材記事掲載。著書に「みんなで変える、日本の新卒採用・就職」など。