理事コラム

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[2019年12月10日(火曜日)/理事・服部 泰宏]

なぜ大学教員は学生の就活成果を予想できてしまうのか?

私は人事・採用領域の研究者ですが、他方で、学生たちを社会へと送り出す教育者でもあります。その教育者としての立場から気づいたことを書こうと思います。
 
毎年、新しいゼミ生がやってきて、90分のゼミナールを3回ほどこなすと、「この中で誰がたくさんの内定を多くもらえそうか」とぼんやりと考えます。
そして面白いことに、その私の予想は、それなりの精度で当たってしまうのです。
私に特殊な能力があるからでは決してなくて、出会ってたった数十分で、「コミュニケーション能力、外向性、誠実性などが高そうだ(実際に高い、とは違うのですが・・・)」と私が主観的に下す評価が、そのまま採用担当が数十分の面接で下す評価になるのです。
 
この事実にはいくつかの問題が伏在していると思います。
例えば、(1)各企業の採用要件がそれだけ類似しており、したがって多くの企業が同じ学生に対して「優秀だ」という評価を下しているということ、(2)人間が他者に対してたかだか数十分程度の面接の間で下す評価は、その人の実際の能力とは関係なく、かなり同質的なものになるということ、そして、(3)多くの企業が使う面接という装置に、ある種の能力の検出には長けているが、他の能力の検出は苦手であるという、ある種の癖がある、といったことです。
私たち教育者は、幸いにして、学生たちをとった後、3年間の歳月をかけて彼ら彼女らへの評価を更新していくことができるわけですが、採用担当の皆さんがそれに気づくのは、往往にして、初期配属の後になるのでしょう。
そしてもし、この構造に求職者たちが気付いたならば、就活とはつまり、ルールと最適解がある「ゲーム」のようなものでしか無くなってしまうかもしれません。
皮肉なことに、この「均衡」を破壊するインセンティブは少なくとも労働市場における供給サイドである学生側にはないわけですから、これを変える契機があるとしたら、それは需要サイドである企業側の採用革新でしかありえません。
 
これが、私たちが「採用学」という活動を始めた時の問題意識であり、それをより本格的に推し進めていく試みが、採用力検定に他なりません。
 

服部 泰宏

服部 泰宏

神戸大学大学院経営学研究科 准教授

神戸大学大学院経営学研究科 マネジメント・システム専攻 博士課程修了。日本企業における「組織と人の関わり合い」、日本のビジネス界における「知識の普及」に関する研究などに従事。2013年以降は、人材の採用に関する科学的アプローチである「採用学」の確立に向けた研究・教育活動に従事。
現在は北米、ASEAN企業の人材マネジメントの研究も行う。著書に「採用学」(新潮選書)など。

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